He is reclusive

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旅への憧憬は60歳手前でも冷めない【読書ノート】「チャーリーとの旅/ジョン・スタインベック」

 

 

 1960年、「アメリカ文学の巨人」と謳われる58歳の作家ジョン・スタインベックが、愛犬とともに母国アメリカを旅した記録。ピューリッツァー賞ノーベル文学賞を授かった人気作家が素性を隠し、居住スペースとなるキャビンを積んだピックアップトラックで放浪するのだから、面白くないわけがない。有名作家がディレクターやカメラマンといったスタッフを引き連れて、飛行機や新幹線、タクシーで移動する紀行文もどきの作品とは一線を画す。

 

 スタインベックは居住するニューヨークを出発し、カナダ国境まで北上。シカゴを経由してシアトルやサンフランシスコなど西海岸沿いの都市をめぐり、ニューオリンズなど南部の都市を経由して東海岸のニューヨークに帰る。国境・海岸沿いにアメリカ本土をぐるりと一周するルートだ。広大な自然に圧倒されることもあれば、無口、イタズラ好きといったその地方の人柄に一杯食わされる時もあるし、南部の保守的な人種差別主義者に憤ることもある。

 

 旅の道中で出会う人々との交流。その友好大使となるのが、愛犬のプードル「チャーリー」だ。放した愛犬がノロノロと他人に近づいていったところで、飼い主のスタインベックが「こらこら、いけないよ」といって叱る。すると向こうの人が「いやいや、いいんですよ」といって自然な交流が始まるそうだ。ピックアップトラックを改造した一種のキャンピングカーや、それを用いた旅のスタイルは1960年のアメリカでは珍しかったらしく、大抵の人はスタインベックに興味を持ち、羨ましがる。スタインベックは地元人を車の居住スペースに招き、コーヒーあるいは酒を振る舞うことで、その人の素性や生活スタイル、哲学などを聞き出していく。

 

 熟年の作家らしく観察眼が鋭く、時に皮肉の効いた筆致が面白かった。また、本の冒頭の以下の書き出しが印象的だった。

 

 私がとても若く、ここではないどこかへ行きたいという衝動を抱えていた頃、大人たちは「そういう胸の疼きは大人になれば消えるもんだ」と請け合ってくれた。何年も経って大人になったら、「中年になれば治る」と言われた。中年にさしかかったら「もっと歳を重ねれば熱も冷める」となだめられた。しかし私も、今や五十八歳である。そろそろ耄碌して落ち着いたってよさそうなものだ。

 なのにちっとも熱は冷めない。

 

 旅への憧憬は何歳になっても冷めないらしい。