He is reclusive

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今にも通じる17世紀のユーモア【読書ノート】「ドン・キホーテ(短縮版)/セルバンテス」

 

 

 17世紀のスペイン人作家であるミゲル・デ・セルバンテスが書いた「ドン・キホーテ」は「史上最高の文学」と評されるだけあって、今も数多くの本のなかで引用・言及されている。以前読んだ「チャーリーとの旅」で米国人作家のジョン・スタインベックが旅のお供にする車「ロシナンテ号」も、ドン・キホーテの主人公の愛馬からとった名前だ。特に欧米では読者が「知っていて当たり前」、つまり教養みたいな扱いをされていると思うのだが、私は読んだことがなかったので今更読んでみた。本当は6巻くらいに分かれていたりとかなり長いが、牛島信明氏が編訳した岩波少年文庫版は文庫1冊分に短縮されており、簡単に読めた。

 

 「史上最高の文学」との評を見るとお堅い作品なのかと構えてしまうが、それは逆で、騎士道物語の読みすぎで現実とフィクションの区別がつかなくなった主人公ドン・キホーテ(この名前も本人が勝手に名乗っているだけで本名とは異なる)が従者のサンチョをしたがえて繰り広げる滑稽なドタバタ劇だ。

 

 読んでいて気付いたのは、今の日本の「お笑い」やギャグ漫画などにも通じるユーモアが、既にこの頃完成されていたことだ。もしくは、ドン・キホーテのエッセンスが今のお笑いシーンにも生きているらしい。お騒がせ主人公と、ブツブツ文句を言いながらもそれについていく子分の組み合わせ。勘違いが勘違いを呼び、カオスになっていく展開。ドン・キホーテがサンチョの顔面に嘔吐し、それでえずいたサンチョがドン・キホーテの頭上に嘔吐する地獄絵図からは、漫・画太郎氏が描くお下劣なギャグ漫画を思い出した。

 

 空腹でも不平を漏らさないやせがまん精神とか、(実際にはドン・キホーテの奇行によって数々の善人を困らせるが)弱きを助ける義侠心などの「騎士道」は日本の武士道とも通じる部分があって、日本人に馴染みやすいのではと感じた。また、ドン・キホーテほど極端ではないにしろ、熱に浮かされて周囲を振り回す人は我々の身の回りにもいたり、あるいは自分自身にもそういう経験があったりして、そういう親しみやすさが、この作品が世界中で長年愛されている理由の一つなのかもしれない。

 

 妙に印象に残ったのは、以下の言葉。姫の呪いを解くには、サンチョが自分で自分の尻を3,300回、鞭打ちしなければならないという嘘にまんまと騙されたドン・キホーテが、それを拒むサンチョを叱りつける。「このニンニク食らいの田吾作め!」。