He is reclusive

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人の死生観は進歩しているのか【読書ノート】「ソクラテスの弁明・クリトン・パイドン/プラトン」

 

 

 「死」あるいは「自死」がテーマの本を読むと、必ずといっていいほど引用されるのが、古代ギリシアの哲学者プラトンが師・ソクラテスの死について書いた一連の作品だ。「神を冒涜し、青年に有害な影響を与える」といった罪で死刑判決を受けたソクラテスは、それを拒むことなく、平常心で死を受け入れる。その振る舞いは弟子たちなど、日頃のソクラテスを知る周辺者にも不可解だったようだが、ソクラテスは自分がなぜ死を恐れないのかを説いていく。

 

 「ソクラテスの弁明」は、死刑判決に至る裁判でのソクラテスの発言の記録が書かれている。情状酌量をこうわけではなく、この裁判の愚かさを主張した上で、煮るなり焼くなり好きにしろ、という感じだ。「裁判の場合にしても、戦争の場合でも、わたしに限らず、他の誰でも、死をまぬがれるためには、何でもやるというような、そういう工夫は、なすべきものではない」。また、かの有名な「無知の知」についても言及する。

 

 「クリトン」では、ソクラテスに国外逃亡を促す旧友クリトンに対し、ソクラテスがそれを拒む理由を説明する。自分が弾圧されようがアテナイが祖国であることには違いなく、祖国の法に従うのが正しい行為である。国外に逃げたとしても、単に食事にありついて生きながらえるだけで、正しい生き方は望めない、といったものだ。

 

 「パイドン」では、ソクラテスが、自身の死刑執行当日に面会に来た弟子たちと議論を交わし、最後の教えを授ける。ソクラテスは、肉体から解放されて、本当の意味で思惟に集中できる「死」は決して悪いものではないと主張するが、これは「肉体が滅んでも魂は不滅」という考え方が前提にある。ソクラテスは、この考え方に疑問を投げかける弟子たちを論破していく。

 

 私は、理解不足も大いにあったと思うが、「魂は不滅である」というソクラテスの「証明」は納得できなかった。私は哲学の知識がないので具体的な言及は避けるが、ちょっと無理矢理感がある印象を受けた。

 

 ただ思ったのは、人にとって死が「未知」のものであって、死を恐れない人間が奇異な目で見られるのは、今も約2400年前も変わらなそうだ、ということ。また、死とは直接関係なくても、70歳を超えた老齢の天才哲学者の言葉は重く、大変勉強になった。例えば、以下の箇所。

 

彼らは何かについて論争するとき、議論の対象となる事柄が実際どうであるということなど考えないで、ただどうすれば自分の考えをその場の人々にもおしつけることができるかということにばかり腐心するものだ。(訳:田中美知太郎  池田美恵)

 

 私も気をつけたい。