北へ(6日目)庄内平野の夕焼けを見ていた
山形県酒田市にある「眺海の森(ちょうかいのもり)」の展望台に登り、庄内平野に落ちる夕日を見ていた。私はこの町に住む人を誰も知らないし、この町に住む誰もが私のことを知らない。しかし、町が夕焼けに染まり、建物や車の灯が一つ一つともって夜景へと変わっていく様子を眺めていると、勝手ながら、この町で生活する人々の生活や感情が心に浮かんできた。
日没まで町を眺めていると、Gerry Mulligan(ジェリー・マリガン)の「Night Lights」という曲が頭に浮かんだ。バリトンサックス奏者のGerry Mulliganだが、この曲ではピアノを弾いている。彼は自分がピアノを弾けたので、他人のピアノ演奏に寛容になれず、ジャズでは割と珍しい「ピアノレス」での編成に傾倒した、という話を聞いたことがある。
この日は遊佐町にある「十六羅漢岩」も見に行った。これは大法寛海という僧侶が地元の石工を指揮して、沿岸の岩石に仏像を彫ったものだ。仏像も素晴らしかったが、私にとっては約2年ぶりに海を見た感動の方が大きかった。
美しい風景を眺めていると、都合の良い考えではあるが、自分の眼を通して別の誰かがこの景色を眺めているのではないか、と思ったりする。それは例えば、早世した父かもしれないし、両親や夫の介護が終わってからは自分の健康が悪くなって旅行に行けないまま亡くなった祖母かもしれないし、親族とは全く関係ない別の誰かかもしれない。夜、そんなことを考えながら目分量で米を炊飯していたら、祖母が炊く白ご飯と非常に似た炊き加減になった。柔らかめの炊き上がりを好む人だった。