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【読書感想】プロ隠居のノウハウ本「20代で隠居 週休5日の快適生活/大原扁理」

 若者の隠居について調べるとまず辿り着くのが、この本の著者である大原扁理氏だ。20代で隠居を選び、出版当時(2015年)で既に隠居5年目に入っている。

 

20代で隠居: 週休5日の快適生活

20代で隠居: 週休5日の快適生活

 

 

 週休5日の暮らしは「のんべんだらり」としているように思えて、意外と、規律の維持と「幸福の追求」に余念がないように思えた。朝は普通のサラリーマンと変わらない6時か7時に起床。家賃を含めて月7万円台でやりくりするなかでも食生活を楽しもうと、外でとってきた野草の下ごしらえや調理に手間を惜しまない。

 

 週2日、重度身体障がい者の介護で月7、8万円を稼いでいるそうだ。また、日々の生活に時間的余裕があるため、体調不良の友人のために食事をつくったり、外国人の部屋探しを手伝ったり、人助けの機会が増えたのだとか。稼ぎは人より少なくても、金銭だけでははかれない「社会貢献度」は決して低くなさそうだ。

 

 大原氏が隠居生活に入ったのは、派遣社員やアルバイトとして働いた職場で、過重労働のストレスから仕事仲間に攻撃的になったり、誇らしげに社畜自慢をしたりする人々に疑問を感じたことがきっかけの一つだそうだ。私もこれまで経験した複数のアルバイト先などで、こういった状況を目の当たりにしてきた。明らかに経営者や管理者に改善を要求すべき問題なのに、現場の人間同士で傷つけ合う。社畜自慢も、その人自身が幸せならそれで良いのだが、日本人的な同調圧力は苦手だ。

 

 しかし現実問題、誰もが大原氏のように、特異な人生選択をできるわけではなさそうだ。大原氏は稼ぎが少ないからといって人間としての能力が低いわけではなく、むしろコミュニケーション能力などは凡人よりも高そうな印象を受ける。それは隠居前に海外放浪した際、現地の外国人たちと仲良くなり「なりゆき」でロンドンに住み着いたエピソードなどからも伺える。

 

 重曹が洗濯用洗剤としても使えることなど、節約生活の具体的ノウハウも参考になった。「伊達や酔狂で隠居はできません」ーー。先輩隠居の言葉は重い。

 

20代で隠居: 週休5日の快適生活

20代で隠居: 週休5日の快適生活

 

 

「本統」「年々歳々」志賀直哉と井上靖の手癖フレーズ

珍しく小説に手を出し、志賀直哉の「小僧の神様・城の崎にて」を読んでいたら、気になる表現がありました。「本当」と書くところを、「本統」と書いているのです。 

 

 

昔の人は「本統」と書くのが当たり前だったのかと思いきや、そうでもないらしい。

同じ発見を、脳科学者の茂木健一郎さんがブログで書いていました。 

lineblog.me

 

別の方のブログによると、宮沢賢治も「本統」を使うことがあったようです。

blog.goo.ne.jp

 

志賀直哉が「本統」を使った真意はわかりませんが、本を読んでいると、そもそも「ほんとう」という言葉自体が頻出することに気付きました。

最初は「統」という字が目立つので、「普通は読み流すところを意識してしまうだけかな」と思いきや、例えば本のタイトルにもなっている随筆「城の崎にて」では

・然し今は、それが本統に何時か知れないような気がして来た。

・あれが本統なのだと思った。

・しかも両方が本統で、影響した場合はーー

と、数ページめくるだけで、いくつもの「本統」を見つけることができます。

「城の崎にて」は志賀直哉本人の心境を書いた作品ですが、同じ本に収録されている他の短編小説でも登場人物が「本統に」などと言っています。

 

即興演奏を主とするジャズやブルースには、その奏者が頻繁に繰り出す「手癖フレーズ」というものがあります。志賀直哉の「本統」も、もしかすると手癖フレーズに近いのでは、と思いました。

 

以前、「井上靖全詩集」を読んだときにも「年々歳々」という言葉が頻出するのが気になりました。

 

井上靖全詩集(新潮文庫)

井上靖全詩集(新潮文庫)

 

 

詩集「北国」のなかだけでも

・年々歳々、なぜか父母のその夜の不幸を星の冷たい輝きで計量する私の確信は動かすべからざるものになってくる(記憶)

・年々歳々、その高い峰の白い花を瞼に描く機会は私に多くなっている(比良のシャクナゲ

・いかなる時代が来ようと、その高原の一角には、年々歳々、静かな白い夏雲は浮かび、雪深い冬の夜々は音もなくめくられてゆくことであろう(高原)

といった次第です。

 

即興演奏の世界で使われる手癖フレーズは、そのプレイヤーのオリジナリティを表すものであり、そのフレーズが繰り出されるたびにファンの心は沸きます。ただ、それを出しすぎると「ボキャ貧」の単調な演奏になってしまうので、手癖フレーズの種類を増やしたり、あるいは手癖フレーズに頼ること自体から脱却しようとしたり、ミュージシャンは苦労するわけです。

ミュージシャンがしばしば不本意に「手癖」に囚われてしまうのは、ノンストップで進行する即興演奏が「筋肉記憶」(フィンガー・メモリー)に頼らざるを得ない性質が関係しています。興味深いのは、優れた文筆家が熟考した文章においても、その兆候が見られるということです。

 

確かに上記の本を読んでいる最中、私はいつしか「本統」、「年々歳々」といった言葉を見つけるたび「また来たー!」と盛り上がっていました。頻度がまた絶妙で、多い多いと思いながら、いざ振り返ると、見つけるのにちょっと手間取ったりする。これは本統に、優れたミュージシャンが繰り出す手癖フレーズに似ていると思いました。

節約や副業でミニリタイア資金を確保した人たち

前回書いた

kizenarui.hatenablog.jp

で引用させて頂いたBusiness Insiderのウェブサイトをよく見ると、ミニリタイア経験者の金銭事情について参考になる関連記事が複数あったのでご紹介いたします。労働期間中は共働きや副業などで高給を稼ぐ一方、節制を徹底し、ミニリタイア中に必要な予算を捻出するようです。

 

 

物価と給料の高い都市で節約

www.businessinsider.com

こちらの英文記事には、27歳のKyle Stimpson氏が世界旅行に出発する前の3年間で8万ドル以上を貯蓄した方法が書かれています。

 

同氏はパートナーのLauren氏と米国のシカゴから豪州のシドニーに移り住み、税引き後給与の30〜40%を貯蓄にあてたそうです。

記事中には「マイカーを所有せず公共交通機関を使う」、「自炊する」など基本的ながら、安定収入があるとつい怠けてしまいそうな「5つの節約術」も紹介されていました。

 

興味深いのは、Stimpson氏が物価の高いシドニーでそれを実現したことです。

物価の高い都市は一般的に給与も高いので、節約を徹底した場合の効果は、「物価が安くて給与も安い都市」より大きく出るのかもしれません。

仮に所得の40%を貯蓄にあてたとして逆算しても、3年間で20万ドル(税引き後)、年平均で約6万7,000ドル(同)を稼いでいた計算になります。記事中で読み取れなかったのですが、Stimpson氏一人ではなくパートナーとの共働きだとしても、結構な金額を稼いでいたことになります。

 

共働き・副業で子供4人とニカラグア 

www.businessinsider.jp

4人の子供とニカラグアで1年間のミニリタイアを経験したマーク・テュー、アマンダ・テュー夫妻の記事は日本語訳されていました。

6年間で学生ローン5万ドルの返済と、ミニリタイア資金3万ドルーー合計8万ドルの捻出は先のStimpson氏が3年間で築いた金額とほぼ同じですが、テュー夫妻には子供が4人いることを考慮すると、かなりの金額ですね。

 

経理財務部長としてフルタイムで働いている夫マークさんは、副業として税務や会計の仕事をする一方、妻アマンダさんは臨時の大学講師として働き、バイオリンの個人レッスンでも教えていた。

とあります。夫の本業だけでも手堅い収入がありそうですが、夫婦共々、ダブルワークで熱心に働いたようです。

 

金銭事情の話からは離れてしまいますが、個人的に以下のマーク・テュー氏のコメントが印象的でした。

ずっとやりたかったことが実現できなくなっているかもしれない65歳になるのを待つなんて、自分にはよく理解できない(中略)明日車にひかれるかもしれないし、42歳でがんで死ぬかもしれないと思ったら、ミニリタイアを迷う必要なんてない。

私は前回の記事で

定年後のセカンドライフ謳歌しようにも、それまで生きているかわからない。高齢化社会の日本では、自分が何歳で定年になるかも不透明です。仮に金融資産が潤沢な状態で定年を迎えたとしても、加齢によって今より体力・気力ともに低下していますから、充実させられる自信がありません。

 と書きましたが、まさにその考えと一致します。

 

Stimpson氏、テュー夫妻の2つの事例を踏まえると、前回の記事で紹介したStefan Sagmeister氏の「7年働くごとに1年の長期休暇」を実現するマネープランは、それほど難しくないように思えます。

www.ted.com

 

 

自分の場合=勤続6年で貯蓄800万円 

私の「隠居」開始時の貯蓄は、退職金を入れて約800万円でした。新卒入社から勤続6年、最終年度の年収は500万円強(退職金を除く)です。

貯蓄した約800万円のうち、入社1〜5年目に約500万円、最後の6年目に約300万円を積み上げました。6年目はコロナ禍で支出が大きく減ったことに加えて、退職金が含まれているので金額が大きいです。 

 

先の事例を踏まえると、「ミニリタイア」には十分な金額を確保できたように思えます。

ただ、 

kizenarui.hatenablog.jp

でも書いた通り、私の場合はコロナ禍というイレギュラーな状況で金銭事情が変化したことが、隠居生活の選択に影響しました。

先に紹介したStimpson氏もテュー夫妻も、あらかじめミニリタイア中にやりたいことと必要な金額を算出した上でマネープランを設計し、適時見直すなど、入念な計画に基づいて行動しています。

いきあたりばったりで社会の喧騒から逃げてきた身としては、頭が下がる思いです。

 

仕事から一時離脱するミニリタイア(mini-retirement)という生き方

一時的に仕事から離脱する「ミニリタイア」という言葉があることを知りました。アーリー(早期)リタイアに代わる新たなトレンドとして、米国で注目を集めているそうです。

 

以下のTED講演「The Power Of Time Off」では、グラフィックデザイナーのStefan Sagmeister氏が7年働くごとに1年ずつ取得している長期休暇の効果を説いています。日本語字幕も選択可能です。

www.ted.com

 

長期休暇のタイミングが「7年働くごとに1年」なのは、本来の定年退職後のリタイア期間である「65〜80歳の15年間」のうち、「65〜70歳の5年間」を先取りして現役期間中に配分するためです。本来の現役期間である25〜65歳の40年間に、1年間×5回の長期休暇を挟み込んで6等分すると、おおむね7年間になります。

 

Sagmeister氏は、長期休暇中は仕事を一切受け付けず、アイデア出しや興味の追求に徹底するそうです。2回目の長期休暇はインドネシアのバリ島で過ごし、現地の野犬からデザインのモチーフを考案したり、「瞑想」を始めたり、購入後4年も放置していた本を読むなどしました。

 

Sagmeister氏が最初に長期休暇を思いついたのは、本業とするデザイン制作のアイデアがマンネリ化してきたためです。

長期休暇後はデザインの質向上により料金アップに成功したことに加えて、長期休暇後の7年間にやった仕事の「全て」が、休暇中の1年間に考えたアイデアに基づくものだということを強調しています。つまり、長期休暇が単なる労働苦からのリフレッシュや逃避ではなく、キャリアアップのための強力な手段であることを示唆しています。

 

Googleで「mini-retirement」と検索すると、ForbesやBusiness Insiderといった米国メディアの記事が上位に表示されます。

www.forbes.com

www.businessinsider.com

 興味深いのは、ミニリタイアがアーリーリタイアに"代わって"、多くの人を惹きつける新らしい生き方であることを強調している点です。

 

Forbesの5 Ways To Plan A Mini-Retirement: How You Can Take An Extended Break From Work

not everyone wants to retire early.

(誰もが早くリタイアしたいわけではない)

と前置いた上で、

the growth of another trend in the U.S. — taking a mini-retirement.

(ミニリタイアという、別のトレンドが育っている)

としています。

 

Business InsiderのHow to tell you're on track for a mini-retirement, according to 2 people who have taken a break from their careers to travel

に至っては、記事の出だしから

Forget early retirement.

(アーリーリタイアを忘れろ)

と言い切っています。

 

日本語の「ミニリタイア」で検索しても、いくつか記事がヒットしますが、いずれも「アーリーリタイア」や「セミリタイア」の関連で「副次的に」取り扱われている記事が目立ちました。 

早期リタイアの実態、親にすすめるべき? | マイナビニュースでは 

 「ミニリタイア」という形のリタイアもあります。これは、一年のうち半分は働き、もう半分は余暇や好きなことに時間を使うというものです。いつでも就業できる資格を持っている、季節によって忙しくなる仕事をしているなどといった人なら可能になるスタイルですが、早期リタイアの中でも特殊な例です。

と、

アーリーリタイアとは?そのメリット・デメリット、必要な資金についてわかりやすく徹底解説! | フォーバル事業承継では

変わったところではミニリタイアもあります。これは、一年の半分は働き、残りの半分を自由に過ごすかなり特殊な形態のことをいいます。

と紹介されています。

しかし、アーリーリタイアの一種とされていることと、季節労働者のように扱われている点が、米国発祥の本来の「ミニリタイア」とは異なるように感じました。

他のネット記事も見ましたが、間違った日本語解説が「文脈を変えた転載」を繰り返されることで広がっているように見受けられます。

 

個人的には、Sagmeister氏の「定年退職後のリタイア期間を先取りする」という考え方に強く共感しました。

定年後のセカンドライフ謳歌しようにも、それまで生きているかわからない。高齢化社会の日本では、自分が何歳で定年になるかも不透明です。仮に金融資産が潤沢な状態で定年を迎えたとしても、加齢によって今より体力・気力ともに低下していますから、充実させられる自信がありません。

 

また、大変参考になったのは、長期休暇中における「計画」の重要性です。

Sagmeister氏は1度目の長期休暇を開始した当初、「自由な時間がアイデアを生み出す」と考え、計画を立てていなかったそうです。しかしこれでは、せっかくの時間を無碍にすることに気づき、小学校の時間割のようなスケジュール表を作るに至りました。

 

隠居生活を開始して約1カ月を終えた現在の私もちょうど、この「計画性」の重要さに気づき始めたところです。ある程度の「日課」は決めているのですが、時間配分のイメージはかなり漠然としており、日課を全てこなせない日も多いです。Sagmeister氏の経験を参考に、具体的なスケジュール表を書き出そうと思いました。