He is reclusive

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部外者としては困惑【読書ノート】明るい炭鉱/吉岡宏高

 

 

 北海道一周中に訪ねた夕張市石炭博物館で購入した、同館館長が書いた本。炭鉱職員の息子として育った著者は、倶利伽羅紋紋の男たちが命の危険と隣り合わせに重労働をする「暗い炭鉱」のイメージは限られた一時代の姿に過ぎず、実際には、整備された福利厚生の下での健全な生活があったと指摘する。

 

 炭鉱で働く人々が住む「炭住」の様子だけでなく、石炭の採掘システムや、炭鉱が廃れた経緯と背景についての説明が充実しており参考になった。

 

 「明るい炭鉱」という書名だが、具体的なエピソードの描写は著者とその父親の体験に終始している点が気になった。炭住ではホワイトカラーである「職員」とブルーカラーである「坑員」の居住区が分けられており、心理的な距離感もあったので一緒に遊ぶことはできなかったという。著者には家族と、ごく限られた友人以外との密な関係が無かったために、他人の生活の具体的な描写ができなかったのではないだろうか。著者は書名に関連して「辛く悲しいことがあっても、気を取り直し意を決して前に進むこと、そこから教訓なり処世なりを得て成長し社会の中で生かすことを、人が本来持つ『明るさ』であると考えている」と述べている。結局、著者自身の炭鉱での生活も基本的には「暗い」ものだったのではないだろうか。

 

 夕張市石炭博物館では、自虐的な描写が気になった。

「圧倒的な廃墟感に負けずドンドン進もう!」

「全国最低の行政サービスと全国最高の市民負担」

 一方、同じ夕張市内で見学ツアーを受け入れている旧北炭清水沢火力発電所活用事業の案内は「廃墟ではない」ことをかなり強調しており、観光客にも理解を求めている。一観光客としては、どういうリアクションをすれば良いのか困惑してしまった。

 

 「明るい炭鉱」の著者も指摘しているが、今の若い人はそもそも「暗い炭鉱」のイメージを持っていない。外部の人間からすると、夕張市(および周辺の空知地方)自体が「暗い炭鉱」のイメージに囚われたままで、炭鉱の観光活用へのコンセンサスも得られていないように思える。