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ヴォルテール読んでーる【読書ノート】哲学書簡、カンディード、寛容論

 18世紀フランスの啓蒙思想家「ヴォルテール」の代表作を立て続けに3冊読んだところ、すっかり啓蒙されてしまった。

 

 

 「哲学書簡」は、ヴォルテールが亡命先のイギリスで目の当たりにした、祖国フランスが学ぶべき点を書いている。色々な宗教に対して寛容な風土、効率的に発達した商業、民主的な議会政治、科学的な教養が民衆まで染み渡っていること、そしてそれらが相互につながっていることを紹介し、フランスの後進性を批判。筆致が堅苦しくなく、毒舌で、ユーモアに富んでいて面白い。

 

 

 「カンディード」は小説形式で、ライプニッツを源流とする「最善説(オプティミズム)」を風刺する物語だ。最善説は、「神は自らの計画に従って、必然的に最善なるものを選択したはずであって、それゆえ現にある世界は、もろもろのありえたかもしれない世界にくらべて最善の世界であるはずだ」(本書解説より)という説。しかしヴォルテールは、暴力や災害などの理不尽によって苦しむ人の目の前で「あなたは不幸かもしれないが、この世は最善である」と説くことが、どんなに滑稽かを表している。

 

 話が要約版かと見まごうほどテンポ良く進み、「ドン・キホーテ」のようなおバカ要素もふんだんに散りばめられている。小説なので、主となるメッセージは比喩的に表されているのだが、その比喩がまわりくどくなくて読みやすい。

 

 私はこの小説にこめられたヴォルテールのメッセージを「人間の力が及ばない自然の摂理はどうせ残酷なのだから、せめて人間でコントロールできる部分は最善に努め、お互いに助け合って生きていきましょう」というようなものだと解釈した。ヴォルテールは博愛精神に溢れた人だと感じた。

 

 

 「寛容論」は、プロテスタントの男性がカトリックの人々に濡れ衣を着せられて処刑された「カラス事件」を題材に、異教徒への迫害の愚かさを説くものだ。ヴォルテールは正義感のみで自論を展開するのではなく、聖書の教えや過去の歴史を引用し、信仰や信条という形而上学的なものを強制的に統一しようとすることの弊害を理論的に説いている。ここで述べられているのは宗教差別にまつわる問題だが、現代の日本でも性的マイノリティなど少数派に対する社会の「不寛容」が存在しないだろうかと考えさせられた。